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‘Our Return Will Come’ 絶対に帰郷してみせる

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2000年3月15日
ニューズウィーク日本版

– カルマパ17世やチベットの将来についてチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマに聞く –

活仏カルマパ17世が姿を見せたときは非常に驚いた、とチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマは言う。
14歳のカルマパは、チベット仏教カギュー派における最高位の高僧。中国チベット自治区から脱出し、インドのダラムサラに到着。ダライ・ラマ率いる亡命政府のもとに身を寄せた。ダライ・ラマはすぐに、カルマパの滞在を認めるようインド政府に働きかけた。

本誌スディプ・マズムダルが、ダラムサラでダライ・ラマに話を聞いた。

◆ カルマパがチベットを脱出したのはなぜか?

彼が最初に語ったのは、チベットの人々にも仏教にも等しく仕えたいということだ。彼は、(チベットで)その望みを果たすのは非常にむずかしいと判断した。だから、大きな危険を冒してでも、脱出するほかなかった。

◆ カルマパが、中国を裏切るわけではないという置き手紙を残してきたというのは本当か?

置き手紙の内容は、僧院やチベットの人々を裏切るつもりはないというものだ。

◆ チベットにおける信教の自由について、彼は何と言っているか。

表面的には、ある程度の自由はある。五体投地や数珠を持つことなどは許されている。だが、本格的な宗教行為には制限がある。

中国は信者に共産党への忠誠を求めているが、そんなことが可能だろうか。共産党はチベット仏教を破壊した。宗教の破壊者へ忠誠を誓えというのか? それは無理な注文だ。

◆ カルマパの存在は、あなたにとって強みとなるか?

彼は最高位の僧の1人であり、多くの信者に慕われている。彼が私を支えてくれれば、私の立場は強くなる。チベット人の夢の実現に向けて大きな力になるだろう。

◆ カルマパがインドにいる今、中国政府に言いたいことは?

まだ若いカルマパは、正しい方法で修行を積みたいと考えている。だから、チベットを脱出した。

中国側は、どんな動きも政治的に解釈する。彼らにとっては、カルマパの脱出も政治的なものだ。私の瞑想生活さえも政治的とみなされている。

彼らは政治のことしか考えておらず、疑心が強すぎる。中国はカルマパの脱出を真剣に受け止め、何が問題なのかを考えるべきだ。

(亡命者は)彼が初めてではない。クンブム寺に、中国政府の意向を忠実に守ってきたチベット仏教の高僧がいた。彼は昨年、北京経由で南アメリカに脱出した。私は彼とアメリカで会って話を聞いた。

彼もカルマパと同じで、中国政府のもとでは仏教の教えを守るのは困難だと考えた。だから、脱出せざるをえなかった。2人のケースは、(中国のやり方が)まちがっているという証拠だ。

◆ 中国は活仏の「制度」を都合よく利用しようとしてきた。

ばかな話だ。宗教、とくに仏教を信じていない者が、どうして活仏を(私たちに)押しつけることができるというのか。

中国政府が活仏を選んでも、活仏が成長してチベット仏教僧としての意識をもつようになれば、彼らのもくろみは失敗する。チベットの人々の心は、そんな小細工では変えられない。

◆ あなたは、もう生まれ変わりたくないというのは本当か?

それを決めるのはチベットの人々だ。彼らの大半がダライ・ラマは不要だと考れば、その時点でダライ・ラマは消滅する。

だからといって、私が生まれ変わらないわけではない。仏教の考え方では、毛(沢東)さえ輪廻から逃れられない。私だって同じだ。

◆ カルマパ17世が次のダライ・ラマを認定することになるのだろうか?

そのときの状況によるだろう。(カルマパが)霊的に高い次元にまで成長していれば、誰もが彼の意見を尊重する。そうなれば、彼が認定することもありうる。

◆ あなたは平和と非暴力を説いているが、平和主義は自殺行為だという意見もある。

長い目で見れば、平和と非暴力こそ最善のアプローチだ。私たちは中国の暴力的な政策に苦しめられている。私たちが同じ手段を選んだのでは筋が通らない。

中国共産党は、暴力では何も解決しないということをわかっていない。彼らはいまだに、武力が最終的な解決策だと考えている。

◆ あなたたちは、いつかチベットに帰るのか?

もちろんだ。ある程度の自由を勝ち取ったうえで帰郷する日が、必ず来る。私が生きている間に、それを実現させてみせよう。

ニューズウィーク日本版(2000年3月15日号 P.49)
インタビュアー : スディプ・マズムダル